
概略
胃癌は日本人が最も罹りやすいがんの一つです。病気の進み具合(進行度)により治療法や治る率が大きく異なるため,胃癌のできた場所や大きさ,周辺への広がり具合,他の臓器に転移しているかどうかなどを把握し,最適な治療法を選ぶ必要があります。治療は手術で胃を切除することが基本ですが,比較的早期に発見されたものであれば腹腔鏡手術など患者さんの体に負担の少ない方法も選択できますし,より浅い癌であれば胃カメラで削り取る(粘膜下層剥離術)ことも可能です。逆に,ある程度広がった癌で,いきなり切除に行くのが得策でないと判断された場合は,前もって抗がん剤治療で癌の勢いをおとなしくしてから手術を行うこともあります(術前補助化学療法)。
胃癌の治療方針の指標として,日本胃癌学会から「胃癌治療ガイドライン」が出ており,当科でもそれに則った治療方法をご提案しています。当科では毎週火曜日の午後に『胃がん外来』を開設していますので,お気軽にご相談ください。
胃がんの進行度(進み具合)
胃壁の厚さは通常3mmほどで,内側から粘膜,粘膜下層,筋層,漿膜下層,漿膜の5層からなっています。胃癌はこのうち最内層の粘膜から発生します。はじめは粘膜内にとどまっていますが,進行すると次第に深くなっていきます。途中,一部の癌細胞は壁内のリンパ管に入り込んでリンパ節に転移したり,血管に入り込んで肝臓や肺といった遠くの臓器に転移したりします。
一般に,胃癌が深くなると転移を起こしやすくなることから,深さが粘膜下層までで転移の可能性の低い胃癌を早期胃癌,筋層よりも深く転移の可能性が高いと考えられる胃癌を進行胃癌として取り扱います。
≪早期胃癌≫ ≪進行胃癌≫

粘膜内 粘膜下層まで 筋層に達する 漿膜下層に達する 漿膜を破る 近くの臓器に及ぶ
さらに最外層の漿膜を破った胃癌の細胞は,癌の本体から離れて腹腔内を浮遊したのち,他の臓器の表面(腹膜)に種を蒔いたようにくっついて増大します(これを腹膜播種といいます)。また,胃の近くの臓器を巻き込みながら大きくなっていくこと(浸潤といいます)もあります。
胃癌の進行度はこれら「深さ」と「転移の有無」で決まります。日本胃癌学会では下図のようにIA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IIIC,IVの8段階に分類しています。
| 深さ/転移リンパ節の数 | 0個 | 1〜2個 | 3〜6個 | 7個以上 |
| 粘膜内・粘膜下層まで | IA | IB | IIA | IIB |
| 筋層に達する | IB | IIA | IIB | IIIA |
| 漿膜下層に達する | IIA | IIB | IIIA | IIIB |
| 漿膜を破る | IIB | IIIA | IIIB | IIIC |
| 近くの臓器に浸潤している | IIIA | IIIB | IIIC | |
| 肝・肺・腹膜などに転移している | IV | |||
胃がんの手術 ― 切除範囲
胃癌はリンパ節に転移しやすいため,術前のCT検査で腫れたリンパ節がないかどうかを入念に調べます。しかし,現状ではある程度の大きさのものでないと描出されないため, 100%正確に把握できるわけではありません。そこで胃癌の手術では,(転移がなさそうだと考えられた方に対しても予防的に)胃のまわりにあるリンパ節を胃本体と一緒に摘出する,という方法をとります。これをリンパ節郭清といいます。リンパ節は胃に近いところから1群,2群,3群と分類されており,標準手術では2群までのリンパ節を切除します。ただし,早期癌では2群の一部の切除を省略してもよいとされています。3群リンパ節は予防的に切除しても治療効果が上がらないことが臨床試験により判明しています。
≪幽門側胃切除術≫ ≪胃全摘術≫
胃の切除範囲:癌が胃の中央より下(幽門側)にあるときには下約3分の2を切除します。これを幽門側胃切除といい,胃癌の手術では最も多い方法です。それに対し,癌の範囲がもっと上に広がっている場合には胃を全部切除することになります。これを胃全摘術といいます。ただし早期の上部胃癌であれば,上半分だけを切除して出口側を残す(噴門側胃切除)ことができる場合もあります。
胃がんの手術 ― 開腹手術と腹腔鏡手術
≪開腹手術≫ ≪腹腔鏡手術≫ ≪TMS≫
従来,胃の手術は上腹部に15〜20cmの皮膚切開をおき,外科医が直接見て触りながら行ってきました。これを「開腹手術」といいます。
それに対し近年,お腹にあけた小さな穴からカメラを挿入し,内部の様子をテレビモニターに映し出しながら,専用に作られた手術器具で操作を行う,「腹腔鏡手術」が普及してきました。この方法は傷が小さくてすむため痛みが少なく,術後の回復も早いという利点があります。しかもカメラで細部を拡大しながら操作を行えるため,外科医は精緻で出血の少ない手術ができます。当科でも,比較的早期の癌でリンパ節転移の可能性の少ない場合には積極的に行っています。
また,もう一つの低侵襲手術として「トロッカー併用小開腹手術Trocar- assisted Minimally incisional Surgery(TMS)」も行っています。当科で開発したこの術式は,腹腔鏡手術に必要な気腹(お腹にガスを入れて膨らませること)をせずに約7cmの小さい傷で操作を行います。手術所要時間が短いのが特長で,肺や心臓に合併症があって長時間の気腹が望ましくない高齢の方にご提案しています。(TMSは平成20年5月17日の神戸新聞朝刊1面でも紹介されました。)
当科の治療方針
1. 早期胃癌に対しては,患者さんの体にかかる負担の少ない腹腔鏡手術を積極的に行います。
2. 進行癌ではあるが,癌の深さが筋層まで,かつリンパ節転移が1群までにとどまると予想される場合は,ご相談の上,腹腔鏡手術をさせていただくことも可能です。それ以上の進行癌に対しては開腹手術を行います。
3. 胃から離れたリンパ節への転移や腹膜播種がある場合は,手術の前に抗がん剤治療を行います。その際,あらかじめ転移の有無を診断するために,全身麻酔下の腹腔鏡検査で直接おなかの中を観察させていただくこともあります。
4. 発見された時点で既に遠くの臓器に転移していて切除不能な場合や再発の場合には,抗がん剤治療を行い,生活の質を良好に保ちながらできるだけ長期間過ごしていただけるよう治療にあたります。
クリニカルパス
クリニカルパスとは,入院から手術,退院に至るまでの医療行為を順序立てて示した行程表です。患者さんにお渡しするクリニカルパスには,入院中に受ける検査や手術の予定に加え,いつから食事が取れかとか,いつから入浴できるかといった入院生活の基本的なことまで詳しく説明されています。また退院日の予定もわかるため、その後の計画も早くから立てることができます。
当科では,幽門側胃切除術では術後3日目から,胃全摘術では術後4日目から食事が始まり,7日から10日で退院できるようなクリニカルパスを用いています。
地域がん診療連携パス
当科では,がん患者さんの術後に継続的で質の高い医療を提供できるよう,かかりつけ(紹介元)の先生と連携のもと治療・経過観察を行っています。連携診療をスムーズに行うため,当科では手術後5年までの診察・検査を実施していくための冊子をお渡ししています。手術の結果や治療経過,また,かかりつけ医での診察・検査結果などの患者さんの情報を共有しながら診療にあたらせていただきますので,来院時には必ずこの冊子をお持ち下さい。
外来化学療法室
当院は,通院患者さんが「より快適に,より安全に」化学療法(抗がん剤治療)を受けていただける外来化学療法室を完備しています。リクライニングチェア10台とベッド5床に抗がん剤の調製室を備えた静かな空間をご用意しており,薬剤師と,がん化学療法看護認定看護師を含む専任の看護師が常駐しています。
実績
≪手術件数の年次推移≫
| 年 | H17 | H18 | H19 | H20 | H21 | H22 |
| 手術件数 | 76 | 81 | 103 | 113 | 117 | 137 |
≪平成22年の手術内訳≫
| 開腹手術(含TMS) | 腹腔鏡手術 | 計 | |
| 幽門側胃切除術 | 54 | 24 | 78 |
| 胃全摘術/噴門側胃切除術 | 42 | 6 | 48 |
| その他(含審査腹腔鏡) | 7 | 4 | 11 |
| 計 | 103 | 34 | 137 |
≪5年生存率≫
| 進行度 | I | II | III | IV |
| 5年生存率(%) | 95 | 73 | 44 | 17 |